OPINION

メディアはどう伝えているか Perspectives from the Media

グローバル化をめぐる世界の報道ぶりを、共同通信編集委員・会田弘継氏が分析します。

 

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アメリカ後の世界

サブプライム問題に発した金融危機からエネルギー高騰、資源争奪戦、食糧危機…パラダイム・シフトをうかがわせる国際社会の状況に対し、スケールの大きな論議が次々と出てきた。

アメリカの外交問題評議会が発行するフォーリン・アフェアーズ5・6月号で、ニューズウィーク国際版編集長ファリード・ザカリアは、冷戦終結後の1990年代から続いていたアメリカ一極支配の時代がいよいよ終わり、台頭する中国やインドに象徴される新興パワーも含め「さまざまなところから、さまざまな人々により指示を受けて、かたちが決まる“アメリカ後の世界”に移行しつつある」と論じた(”The Future of American Power”)。

他の国々の力が増してアメリカの相対的力は落ちる。だが、アメリカは自国だけが特権的な力を持つと考えずに、新興諸国と協力して、世界のさまざまな声に耳を傾ければ、安定した世界をつくれる、とザカリアはいう。新興勢力も市場経済と民主主義に基づき透明性のある開かれた体制を目指すのだから、結局はアメリカの理想が実現していくことになる。ただ、アメリカの対応次第で、世界はナショナリズムの高まりによって分裂する恐れもあるという。このザアリアの論議は、新著『アメリカ後の世界』(”The Post-American World”)からの抜粋だ。

同じ号のフォーリン・アフェアーズには、さらに二人のアメリカとアジアの論客による、グローバル化世界の将来に関する興味深い論文が載っている。

外交評議会会長のリチャード・ハースは、21世紀世界はアメリカの圧倒的優位の時代が終わって「無極の時代」に入っていくと主張する(”The Age of Nonpolarity)。日米欧とロシア、中国、インドで世界人口の半分以上、GDPの75%、世界軍事費の80%・・・を占める今日の世界は、一見古典的な「多極世界」に見えるが、実は違うとハースはいう。多極世界をつくるかにみえる国民国家は、実はその上部にある地域機構や国際機関の制約を受けている。他方で国際的に活動する非政府機関(NGO)や多国籍企業、さらに国内の民兵組織などによっても制約されている。グリーンピースのようなNGO、CNNやアルジャジーラのように国際的に展開するメディア、アルカイダのような国際テロ組織・・・なども国際関係に影響を与えるプレーヤーだ。多彩な力が働く国際社会をハースは「無極」と呼ぶ。そこでは、国家統制の及ばないさまざまな力がうごめく。

「無極世界」では従来の国家間の同盟関係もあまり意味をなさない。外交も複雑になる。中核になるような国々や組織が「コア・グループ」として連帯して「協力的な多元主義」を実現することが「無極世界」の安定につながるという。少し忘れ去られた感のある世界貿易機関(WTO)の再活性化と並行し、紛争処理機能を持つ世界投資機関(WIO)の創設などを提言しているも興味深い。

以上の二人より大胆なのは、シンガポールの論客キショール・マフバニ氏(シンガポール国立大)の論文「欧米への反論」だ(”The Case Against the West”)。米欧は、中東問題、核拡散防止、貿易自由化促進、地球温暖化という、今日の最重要課題で行き詰まっている。欧米主導の国際秩序は「システミックな問題」を生じている。台頭するアジアを取り込んで、より民主的なグローバル・ガバナンス、グローバルな意志決定システムを目指す必要がある。金持ち国クラブである経済協力開発機構(OECD)や主要国首脳会議(G8)などは廃止すべきだ。欧米の途上国援助は自分たちの利益や安全のために行っていたにすぎない。国内統治の成功を背景としたアジアの近代化・発展プロセスにこそ、世界安定化のカギがある…という主張だ。「国内統治」の強調はいかにもリー・クアンユーのシンガポールならではだが、かなりの真実がある。

そのマフバニが5月21日付フィナンシャル・タイムズ(FT)紙への寄稿で、欧州はアメリカの軍事力に「ただ乗り」して平和の安楽をむさぼっているようなものだと厳しく断罪し、せめて東アジアの近代化を見習うよう中東イスラム諸国を促したらどうだ、と提言しているのも目を引いた(”Europe is a geopolitical dwarf.”)

フォーリン・アフェアーズ誌の3つの議論は、7月初めに北海道洞爺湖で行われる主要国首脳会議(G8サミット)を意識して掲載されたようにも思える。

「健全な」グローバル化への処方箋

これらと歩調を合わせるかのように5月30日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビュン紙に、外交論壇の長老ヘンリー・キッシンジャーが寄稿し、今日のグローバル社会の経済と政治のギャップを埋めるため具体的な提言を行った(”Globalization and its discontents”)。経済グローバル化は世界に繁栄をもたらすはずなのに、政治ナショナリズムを引き起こして、そこに国際システムにおける経済と政治のギャップが生じている。キッシンジャーは、そのギャップを埋めるために6つの具体的な政策提案をした。①G8サミットを発足時の経済サミットに戻して、インド、中国、ブラジルを加える、②サミットとG7財務相会合を同時開催してグローバル化による社会問題などに対応する、③国際通貨基金(IMF)を21世紀型金融危機に対応できるように改革する-などが、興味深い。

クリントン大統領時代の財務長官で、いまはハーバード大教授を務めるローレンス・サマーズも「健全なグローバル化」を推進するための青写真を提案している(5月2日付FT紙 “A strategy to promote healthy globalization”)。グローバル化した経済の下では、企業は法人所得税の低いところ、さまざまな規制の緩やかなところを探して移動していく。各国が国境を越えた企業誘致に熱心になればなるほど、そこに必然的に「底辺をめがけての競争」と呼ばれる税率切り下げ、規制廃止の激しい競い合いが起きる。その結果は貧富の格差であり、それに対応する各国政府の社会保障策の財政基盤の崩壊だ。それを防ぐために、法人所得税分野や規制維持での国際的な合意づくりを、米国が音頭をとって進めるべきだという。妥当な考えだ。

HSBC銀行の経済分析担当取締役スティーブン・キングの提案も、サマーズほどの具体性はないが、主旨は同じだ(5月6日付英インデペンデント紙)。「グローバル化は国家間の富の不平等を縮めていくが、国家の内側で不平等を増大させていく」というキングの要約は、ほぼ当たっている。「効率が生まれるところに所得分配の欠陥が起きる」という要約も同様だ。グローバル化の敗者を救い出すような所得再分配施策を講じるのが「啓蒙されたグローバル化」であり、それを政治がきちんと行わないと「啓蒙されていない保護主義」に陥ることになる、という。これも妥当な考え方だろう。

政治・安全保障面では、ネオコン論客のロバート・ケーガン(米カーネギー平和財団)は、民主主義国家連盟をつくって、深刻な国際問題に協力して当たっていったらどうかという提案をしている(5月14日付FT紙”The case for a league of democracies”)。中国・ロシアが国連安保理で拒否権を使って国連が身動きとれない場合、民主主義国家連盟で対応すれば、というわけだ。これは、19世紀的な大国外交に時計を逆戻りさせるだけではないか、とコロンビア大の歴史学教授マーク・メイゾワーは反論し、二つの世界大戦を経ての国連創設の歴史的意義をあらためて振り返り、その重要性を強調する(5月29日付FT紙”America needs the United Nations”)。民主主義国家連盟に類した提案は、アメリカでは共和・民主を問わず論議されている。ケーガンは共和党大統領候補に決まったマケイン上院議員の非公式の外交政策顧問の一人だ。その一方で、民主党候補となるオバマ上院議員の外交顧問の一人、アイボ・ダールダーも同じような提案をしている。どちらの政権が生まれても、この論議が続きそうだ。

食糧危機の打開策

5月の世界のグローバル化問題報道は、さらに具体的な処方箋の提案も目立った。ゼーリック世界銀行総裁は食糧危機への具体策をまとめて、5月30日付FT紙(”A 10-point plan for the food crisis”)に寄稿した。1974年の第1次石油危機の際に先進諸国が石油備蓄を共同して行い、緊急時に放出するためつくった国際エネルギー機関(IEA)に見習って、G8主要国と途上国で食糧備蓄体制をつくる、食糧危機の直接的原因のひとつであるトウモロコシを使ったエタノール燃料については、欧米諸国に対しサトウキビ使用のエタノール輸入にシフトしていくーなどの提案が目を引く。洞爺湖サミットで論議されてもよさそうだ。

世界の貧困克服を目指すNGO、英国オックスファムのストッキング事務局長は、今回の食糧価格高騰で、インド亜大陸で3億人が飢餓の危機に直面する可能性があるというアジア開発銀行の見方を挙げて、途上国の農業とインフラへの投資の必要性を訴えている。同時に、欧州連合が途上国との経済連携条約を結ぶときに課した急速な市場開放や規制緩和措置が、途上国を今回の食糧危機などに対し脆弱な体質にしたと批判している(5月2日付Guardian Weekly、”Threat or opportunity?”)。

カリフォルニア大学バークリー校のマイケル・ポラン教授によると、現代農業は化石燃料への依存度が高い。肥料、加工、輸送…。1カロリー分の食糧が出来るのに10カロリー分の化石燃料が使われるという(5月19日付ニューズウィーク”How to Feed the World”)。これでは石油価格暴騰は食糧価格の大暴騰になってしまう。さらに穀物10キロで牛肉1キロとなれば、牛肉は石油をがぶがぶ飲んでいるのと同じ?

この他、気候温暖化が進んで観光地の様相が変わる(例えば、浜辺の浸食)ことなどを考慮して2030年の世界の観光産業を展望すると、途上国が負け組、先進国が勝ち組になり、欧州内部を見ても北が有利で南は不利―という5月8日付香港サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙掲載のドイツ銀行エコノミストによる分析などが目を引いた。

大きな議論が出てきた中で、米フォーリン・ポリシー誌5・6月号は世界の論客トップ100人をリストアップした(”The Top 100 Public Intellectuals”)。アジアからは12人が選ばれた。インドのアマティア・センらインド・中国の論客はいるが、日本人の論客は一人もいない。

『アメリカ後の世界』で日本は大丈夫だろうか?

共同通信編集委員。東京外国語大学英米科卒。ジュネーブ支局長、ワシントン支局長などを歴任。著書に『戦争を始めるのは誰か——湾岸戦争とアメリカ議会』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。