前月に続きグローバルな食糧危機をめぐる報道が目立った。
4月14日付のウォールストリート・ジャーナル紙が「食糧高騰、暴動に世界の指導者らは懸念」(Food Inflation, Riots Spark Worries for World Leaders)と題した一面記事で、状況をまとめている。エジプト、カメルーン、コートジボワール、セネガル、エチオピアで食糧暴動が起きた。ゼーリック世銀総裁は33カ国で暴動発生の可能性があると予測した。「食糧保護主義」という現象が出始めた。農業保護のため食糧輸入の関税を上げるのは農業貿易の通常パターンだが、十数カ国で、輸入食料の関税を下げて、輸出に障壁を設けるという逆の現象が起きた。
すすむ「食糧保護主義」
コメ輸出国タイの代表的英字紙ネーションは、4月10日付の「コメ市場を守る絶好の機会」("The Time is Right to Protect Rice Market")と題した社説で、精米業者やコメ輸出業者に定期的に貯蔵量報告を義務づけるよう求めた。昨年に比べ二倍近くまで価格が急騰したコメについて、インドやベトナムは輸出規制を敷いたため、一層の価格高騰を招いている。ネーションの主張は輸出規制を求めるまでにはいかないが、その一歩手前だ。価格高騰で農村は潤っているが、いつ何時事態は急転して混乱に向かわないとも限らない。これを機会にコメ価格統制で農村安定化を図れと社説はいう。
タイに次いで世界第2位のコメ輸出国であるベトナムの英字紙ベトナム・ニューズは4月25日付の「食糧危機で農業の重要性を再確認」("Food Crisis Reaffirms Importance of Agriculture")と題した論説(Outlook)で急速に進む工業化で農地が失われていく危険性に警鐘を鳴らしている。「ハイテク時代に世界が飢餓に陥るなどとは、だれが思って見たろうか」と、論説はやや皮肉を込めていう。東南アジアと中国の経済発展は中産階級の増大をもたらし、食糧需要は2030年までに2倍になるというのが世界銀行の予測だ。彼らは、穀物そのものでなく、穀物を大量に消費して飼育される家畜の食肉や乳製品を求める。先月の報告でウォールストリート・ジャーナル紙から引いたように、豚肉1ポンドつくるには10ポンドの穀物、牛肉なら20ポンド以上が必要となる。豊かさは幾何級数的に穀物消費を増大させる。ベトナム・ニューズは2001-2005年の5年間で同国の農地の3.9%、面積にして36万ヘクタールが、工業団地造成や都市開発で失われたという政府統計を挙げ、少なくともこれ以上米作農地を失うな、と訴える。
一方、1995年以降、コメ輸入国に転じたフィリピン。25日付のフィリピン・インクワイアラー紙によれば、今年は220万トンの輸入米が必要だが、すでにトンあたり1136ドルと1月の430ドルに比べ3倍近くになった米価に往生している。国際コメ研究所(IRRI)が本部を置くフィリピンがなぜ世界一のコメ輸入国に成り下がったのかと同紙は嘆く(“Why RP, home to IRRI, is now the world’s top rice importer)。同日付の解説記事によれば、1997年の農業・水産業近代化法で定めたプログラムをしっかりと実施してこなかったのが、今日の状況を招いた原因だと説き、政治的貧困にはあらためて憤りをぶつけている。
以上が、グローバルな「食糧危機」を受けての、アジアの代表的なコメ輸出国と輸入国の論調だ。
バイオ燃料の皮肉
食糧価格高騰の一因とされるバイオ燃料(エタノール)問題についての米タイム誌4月7日号の特集「クリーンエネルギー詐欺」("The Clean Energy Scam")は、グローバル化を考える上で示唆に富む。
地球温暖化対策の一環として大きな期待が寄せられていたバイオ燃料だが、グローバルな経済活動の連鎖を見ていくと、単に食糧価格高騰をもたらすばかりか、実は温暖化対策にもならず、逆に温室効果ガス増加につながっているという。トウモロコシやサトウキビからつくるエタノールをガソリン替わりにつかうバイオ燃料の製造は、温暖化対策ブームに乗って、世界全体での投資額が1995年には50億ドルだったのが、2005年には7・5倍の380億ドルになった。2010年には1000億ドルを超えると予想されている。
米国では、エタノール原料のトウモロコシの価格が急騰、それを見た大豆栽培農家がトウモロコシ栽培に転換、大豆価格も高騰した。世界的大豆不足から、ブラジルの農家が牛の放牧地を大豆栽培にどんどんと転換、放牧地を追われた牧畜業者が牧草を求めてアマゾン流域の熱帯雨林を切り開き、森林破壊が進んでいる。アマゾン流域の大森林は温暖化効果ガスである二酸化炭素を吸収して、温暖化を緩和しているが、その吸収源が失われているのだ。昨年後半期だけでも、米ロードアイランド州の半分の広さ(約2000平方キロ、東京都に匹敵)が破壊されたという。
温暖化対策の希望の星のひとつだったバイオ燃料が逆に温暖化を促進しているばかりか、食糧危機まで引き起こしているのだとすれば、唖然とするしかない。しかし、トウモロコシを使うバイオ燃料はすでに農業州の米アイオワで5万3千人の雇用を生み、18億ドルの収入源となっており、さらに建設中の工場が多数あるという。舵を切って方向転換するのは大仕事だ。
こうした温暖化―食糧の連鎖をみると、タイム誌4月号への潘基文・国連事務総長の寄稿「正しい戦い」("The Right War")も説得力を持ってくる。事務総長の弁によれば、国連は政治・外交の「グローバルな交差路」となっており、さまざまな問題が押し寄せてくるが、それらは裏には連関が隠されていることが多い。その連関をたどると、真の解決につながるのだという。例えばスーダンのダルフール紛争。何十年にもわたった旱魃で、土地と水をめぐって農民と放牧民が争い始めたのが発端だ。貧困と地球温暖化を含めた環境問題が絡み合っており、ローカルな問題とグローバルな問題が連関している。故ケネディ大統領が1963年の国連総会で述べたように、「それぞれの国が行動を起こすとともに、グループで、国連で行動する」ことが重要だ。
世界を動かすスーパークラス
ニューズウィーク誌4月7日号の「実務主義ノスタルジアの政治」("The Politics of Practical Nostalgia")は、最近東アジアで実務家肌の政治家が相次いで政権に就いたり、力を伸ばしている政治現象をグローバル化と結びつけている。今年になって就任した韓国の李明博大統領、台湾の馬英九総統、亡命先から帰国しタイ政界の実権を牛耳るタクシン元首相、3月の総選挙で大躍進した野党を率いるマレーシアのアンワル元副首相。新しい東アジアのリーダーたちに共通するのはプラグマティズム(実務主義)だ。これらの国々では建国から大成長期を強力な中央政府が率いて、国内産業を国際化の波から保護するなどしてきたが、グローバル化する世界ではそれはもはや難しい。それが、こうした実務派のリーダーが出てくる背景だという。「グローバル化に直面したら、イデオロギーではやっていけない。実務的になる必要がある」という学者のコメントを紹介している。
ニューズウィーク誌4月14日号と5月4日付米ワシントン・ポスト紙は、『スーパークラス』("Superclass")という新刊の著者でカーネギー国際平和財団の客員研究員を務めるデイビッド・ロスコップの寄稿を掲載した。グローバル化で一体化する世界を動かしているのは6千人ほどのエリートの国際ネットワークだという。実業界、金融界、政界、文化、軍事などのエリートたちで、国境を超えた影響力を与えることが出来る。力の源泉の一つは、問題が起きたときにすぐに世界中のエリート仲間を集めたり、連絡を取り合って解決方法を探せることだ。このスーパークラスのもとには巨大な富が集中している。世界のトップ50の金融機関は世界の資産の3分の1にあたる50兆ドルを管理し、世界のトップ250企業は世界のGDPの3分の1に相当する売り上げを持つ。10億ドル(約千億円)以上の資産を持つ世界の1100人は、世界の下層階級25億人の持つ総資産の倍を所有している・・・。経済力はないが世界的影響力を持つ宗教家らも、ロスコップはこのスーパークラスに数えている。彼らは毎年スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラムのような場で顔を合わせ、互いに連絡をとる。世界を覆う強力なグローバルガバナンスの仕組みができるまでは、これら6000人が世界を動かし続けるだろうというのが、ロスコップの見通しだ。
そうしたエリートクラブを破壊しようとしたのが9・11の首謀者ウサマ・ビンラディンなのか、それともビンラディン自身もそのエリートクラブの一員で、はぐれ者にすぎないのか。彼の出自を考えたりすると、にわかに断じ難いような気がする。












