食料、水、石油、鉱物資源からはじまり住むための土地までをめぐって、地球社会は激しい争奪戦に向かっているのではないか。そんな問いかけをする報道や論評が目についたひと月だった。そうしたさまざまな問題の裏に、台頭する中国とインドが濃い影を落としている。
深刻さ増す食料と水の確保
メキシコ市では昨年すでに、食料品高騰に怒った7万5千人もがデモに繰り出し、トルティーヤ暴動と呼ばれた。トルティーヤはタコスなどに使う薄焼きパンだ。インドではタマネギ・デモ、インドネシアでは大豆デモ、ブルキナファソでは食糧暴動で政府機関が焼き討ちにあった。ミラノではパスタ高騰で食品店主らが騒ぎ出した、と米誌USニューズ・アンド・ワールド・リポート3月17日号は伝えた(”The Growing Food Cost Crisis”)。こうした全世界的な食糧騒動は1790年代のオイルショック以来だ。ただ、今回の方が原因が複雑で深刻だという。
背景には、原油高騰による肥料製造・輸送費アップ、地球温暖化の農作物への悪影響と、温暖化対策としてのエタノール燃料へのシフト問題がある。米国では今年、トウモロコシ収量の3分の1が93億ガロンのエタノール製造に充てられる見込み。食糧高騰のために世界食糧計画(WFP)や米国際援助庁など人道援助機関は緊急支援計画の大幅縮小を検討しだした。温暖化対策のエタノール燃料が、回りまわって餓死者を生むとしたら、何をかいわんやだ。
食糧高騰の背景として決まって指摘されるのが、中国とインドの経済発展に伴う中産階級拡大だ。3月24日付ウォールストリート・ジャーナル紙は『人口論』のマルサスの肖像画を掲げた一面の長文記事で中国やインドがこのまま成長を続けていった場合のさまざまな資源問題を取り上げた(”New Limits to Growth Revive Malthusian Fears”)。さきのUSニューズ誌に戻れば、2016年には中国・インドも含めた途上国の鶏肉消費は25%増、豚肉消費は50%増となるが、WSJ紙によると豚肉1ポンドつくるには10ポンドの穀物、牛肉なら20ポンド以上が必要となる。豊かな社会の食事のタンパク質シフトが、食糧難に輪をかける。WSJ紙の長文記事は、資源を上回る人口の増加の矛盾は人の死を持って調整されるというマルサスの『人口論』の悲観的な一節ではじまりながらも、人の英知による問題解決に期待をかけて終わっている。
この記事は、資源危機の一つとして「水」も取り上げた。中国やインドでは、水の需要増などで地下水面がどんどんと下がっている。北京では数百フィートも下がった。河北省では巨大な湖がいつの間にか小さくなった。アフリカ、中東、南欧、中南米で水不足は深刻だ。カリフォルニア大バークリー校のエドワード・ミゲル教授ら経済学者の研究では、サハラ以南のアフリカでは降雨量が減ると内戦が起きるパターンがみられるという。1990年に極端に雨が減ったシオラレオネでは翌年に内戦となった。中国でまさか銃をとっての内戦は起きないだろうが、水をめぐって激しい政治的な戦いはあるだろう。
英ガーディアン・ウィークリー誌は3月21―27日号で、「水をめぐる政治」を特集している(“Every drop counts”)。世界の10億人以上が、清潔な水を得ることができない。25億人以上がトイレに問題を抱えている。水と衛生をめぐる問題のため、毎日5千人の子供が病死している。世界で生じる病気の8割は不潔な水に起因する・・・2015年までに世界で安全な水を手に入れることのできない人を半減させるには毎年100億ドル(約一兆円)の投資が必要だが、それをしないことによるコストは380億ドルという。しっかりと考えたい。同誌は3月14-20号で別の意味での「水問題」も取り上げている。地球温暖化による海面上昇などを主に原因とする「環境難民」がこれから10年で数百万人に及ぶのではないかという予測だ。地球人口の5分の1は沿海地域に住んでおり、海面上昇の被害を受ける恐れがある。特に中米・カリブ、中国・インドの沿海部が危険地域だ。住む土地が水没して無くなり、欧州などに難民となってなだれ込む。その一方で、温暖化は、地域によっては30%減という水飢饉をもたらすという(”Europe expects a flood of climate refugees”)。
資源をめぐる中国・インドの動き
食糧・水だけでなく、原油やさまざまな鉱物資源をめぐる争奪戦状況を、中国を軸に描いたのがエコノミスト誌3月15―21日号の特集だ(”A ravenous dragon”)。表紙では大きな五星紅旗を手にラクダに乗って進む一群の(合成)写真に「新植民地主義者」とタイトル。急成長する中国経済が必要とする天然資源を世界中に買い漁る中国の姿を、同誌はそう形容した。世界有数の資源大国にして最貧国の一つコンゴ民主共和国。その奥地のルムンバシにある約50の銅精錬所のうち半数は中国資本だ。中国政府はコンゴ国家予算の3倍という、西側諸国や国際金融機関をはるかに上回る資金をつぎ込んで、全土の鉄道、道路、鉱山の整備をするという。さらに原油を求めてスーダンへ、木材、コメを求めミャンマーへ。天然資源にめぐまれながらも西側諸国から問題視されている国々を選ぶようにして、接近している。
中国企業はこうした国々で「基本的な法律、環境・労働基準を無視して資源確保に走り、後には汚職、環境汚染、労働者搾取の傷跡が残る」と、NGOなどは懸念する。問題ある国の政権に対して、別に国際世論を気にする必要はないと、むしろ逆らうようにし向けるところもあり、「経済自由主義と民主主義のワシントン・コンセンサス」に対し、「国家主導開発と専制の北京コンセンサス」が、途上国を舞台に競い合う状況が出ている。実際、アンゴラは中国からの援助や投資を受け、経済運営の透明性などで条件がうるさい国際通貨基金(IMF)からの援助は断るようになったという。こうしたエコノミスト誌の分析は、現地買弁エリートと植民地帝国が結びつき、市民を搾取する(エコノミスト誌の本国英国がかつてやっていた)19世紀型植民地主義の再来のように聞こえる。
この中国問題を別の角度から照射しているのが、フォーリン・アフェアーズ誌3・4月号の「民主主義後退」(”The Democratic Rollback”)と「中国・インド、アフリカへ行く」(”China ad India Go to Africa”)だ。アメリカのフーバー研究所のシニア・フェローで、権威あるジャーナル・オブ・デモクラシー誌共同編集長のラリー・ダイアモンドは、1970年代以来、世界中で進んできた民主化がいま後退期に入ったと懸念を示す。74年以来で数えると90カ国以上が民主化への転換を遂げ、世界の独立国の約60%が民主主義になったのに、ここ数年でナイジェリア、ロシア、ベネズエラなどで流れが逆になった。ダイアモンドは、単に選挙を行ったり、憲法をつくるだけでは民主主義にならないことを指摘する一方で、石油成金となったロシアが力を揮いだしたことと、中国がアジア、アフリカで援助大国になってきたことが、途上国の民主化改革への障碍になっているとみる。民主化を進めるには外圧も重要な条件となるのだが、中国・ロシアは逆の方向を向いている。
もう一方の「中国・インド、アフリカへ行く」の筆者で世界銀行のアフリカ地域経済顧問のハリー・ブロードマンは、中国やインドのアフリカでの経済活動を、肯定的な面に光を当てて見ていこうとしている。論文の副題が「途上国におけるニューディール」とされていることからも、それはうかがえる。
サハラ以南のアフリカからの中国向け輸出は、2000年から05年までの間、年平均48%という高い率で伸びており、対米輸出の伸びの2.5倍、対EU輸出の伸びの4倍となっている。エコノミスト誌などが指摘するように今は一部の国からの資源が中心だが、中国、それにインドの拡大する中産階級は、アフリカ製の繊維製品、日用品、加工食品などを求めるようになり出しているという。中国・インドのアフリカからの輸入拡大に両国からの直接投資が絡んでくれば、これまで置いてきぼりになってきたアフリカの経済発展の好機になるというのが、ブロードマン論文の趣旨だ。
もちろん問題は起きている。中国・インドの資源開発中心の投資はあまり雇用は生まず、逆に中国業者らが中国産繊維製品などを持ち込んで、アフリカの製造業を喰ってしまう傾向もある。さらに中国の政治的野心が疑われている問題があると、ブロードマンも認める。ただ、彼によると、中国政府も中国企業の海外での活動によって、自国のイメージが悪化していることを十分意識しており、最近は中国の海外進出企業に対し「よき企業市民」になるために指針を示すなどの対応をとっているという。評者の意見では、カモフラージュなのか、本心なのか、見極めが必要だが、中国自身の内部でも対外進出をめぐって国際協調派の新勢力と国益最優先の旧勢力が争っていると考えるのが妥当ではないだろうか。
2月の本報告のように、アメリカ経済の失速を軸にいま世界で起きているかもしれないパラダイムシフトを考えることも重要だが、もう一つの視点は中国・インドの側から、同じパラダイムシフトを見つめることも大切だろう。3月はそうした意味で、興味深い論調が目立った。
グローバル社会にひそむ闇
アメリカ経済の失速による世界のパラダイムシフトという観点からは、3月25日付けフィナンシャル・タイムズ紙のマーティン・ウルフのコラム「ベア・スターンズ救済は自由化の終わりを示す」(”The rescue of Bear Stearns marks liberalization’s limit)が興味深い。ウルフは、サブプライム金融危機で破綻の危機に瀕した証券会社ベア・スターンズに対し、米連邦準備制度理事会(FRB)が資金繰り支援に乗り出す決定をした2008年3月14日を以て、一つの時代が終わったことが宣言されたとみる。この日は「グローバル自由市場資本主義の夢が潰えた日」だという。規制緩和はついに限界に来た。ドイツ銀行のアッカーマン会長の言うとおり、「市場の自己治癒能力はもはや信じることはできない」ということだと、ウルフはいう。ベテラン経済ジャーナリストらしい歯切れのいい、そして本質をえぐるようなコラムだ。
グローバル化をめぐっては、さらにフォーリン・ポリシー3・4月号で、E・ベンジャミン・スキナーというジャーナリストが現代世界の奴隷問題を報告しているのが目を引いた。スキナーによれば、奴隷は過去のものになったと思うかもしれないが、実は世界の貧富の格差や地域紛争などにより、今や人類史上最多の奴隷が存在するという。欧州、アジア、南北アメリカで人身売買により売春や強制労働に追い込まれている人は200万人に及ぶというのだ。ハイチでは30万もの子供たちが奴隷として売買されて、過酷な家事労働などにあたっている。
グローバル社会の闇は深い。












